遺された物

2004.01.23
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生命保険の捺印に使った印鑑が見当たらなくて、家中の大捜索をした。
その途中、ひとつの見慣れないセカンドバッグを見つけた。
父のものだ。

父の遺品を整理しているときに、捨てられないようなものをとりあえずこのバッグに放り込んでおいた。それ以来だから、かれこれ5年以上もそのままにしておいたということになる。

好奇心に駆られて、バッグを開けてみた。
なかにあったのは、医療機関関連のカードや、アドレス帳、財布など。
それらをひとつひとつ眺めていると、アドレス帳に、写真が二枚挟まっているのを見つけた。女性の写真だ。
色々記憶を思い返してみたが、わたしの知っている父の知り合いの顔のなかにはいない。いったいどういった関係のひとなのだろうか。

そういえば父の通夜の席で、友人のひとりがこんなことを言っていた。


「おまえのオヤジが入院する二週間ぐらい前、女連れておれんち来たことがあったんだわ。そんときはお茶飲んですぐ帰っちまったけど、あとから話聞いたら、結婚するかもしれんとかなんとか言ってたぞ。」

「その女のひとは、知ってるひと?」

「いや。」

「名前とか言ってなかった?」

「わからん。なんも訊いてなかったわ。」


この写真に写る女性は、生前父が付き合っていたひとだろうか。
写真はどちらも、女性がひとりだけで写っている。ただの知り合いならこんな写真を持っているだろうか。

写真が挟んであったページには、女性の名前と電話番号の書いたメモ用紙も残されていた。
なんだかわけもなくドキドキしてくる。
もし父の時間があのときで止まっていなかったら、いまこの家にこの女性がいるという可能性があったかもしれないのだ。


父はわたしとはまったく正反対のひとで、酒はよく飲むし几帳面だし綺麗好きだし女性関係は真面目だし。
母が家を出てから、ずっとひとりで家を支えていた。
そんな父が、想いをよせた(かもしれない)女性に、一度会ってみたと思った。会って、わたしの知らない父の姿を知りたいと思った。
でもいまさら彼女に連絡をとったところで、迷惑がられるだけかもしれない。そっとしておくほうが、きっといいのだ。
写真は再びバッグのなかにしまいこんだ。


もうひとつ、発見があった。
財布の中に昔の紙幣が入っていたのだ。
五千円札、千円札、五百円札、百円札、、、。
以前、小物入れのなかに、たくさんの切手とテレホンカードがあったのにはびっくりしたが、まだこんな隠れた趣味を持っていたなんて。
意外と父には、コレクター癖があったのかもしれない。

ただ、紙幣はどれもしわくちゃなものばかりで、これでは保管しておいてもきっと価値は上がらないだろう。
父の残念がる顔を想像して、ひとりでにやけながらバッグを元の場所に戻した。
そうそう。印鑑を探さなくては。

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