この物語は、あるひとりの男が、とある電化製品店にて、悪戦苦闘しながら携帯電話を買うまでの様子を描いた、奇跡の(ト)ラブ(ル)ストーリーである。
男は迷っていた。
携帯を買い換えるという意志はもう固まっていたし、どれを買うのかも、カタログを見てすでに決めていた。
しかし、実際に店頭におもむき、こうして様々な機種を見ているうちに、どれを選ぶべきか迷ってしまっているのであった。
?20分ほど時間が過ぎただろうか。
男は意を決すると、店員を呼び、棚に並ぶ携帯のなかのひとつを指差した。
「これください。」
それは、来店するまえから決めていたもの。
色々物色はしたが、やはり初志貫徹しようと決めたのだ。
「こちらでございますか?」
「はい」
「申し訳ありません。こちらですと、お取り寄せになってしまうのですが」
お取り寄せ。大鳥よせ。おっとり与平。
男の頭のシナプス回路を、微電流が駆け巡る。
こういったときにあたふたしてしまうのは、オトナの男としてかっこ悪い。
「ふむ。そうですか。?では、これは?」
「すいません、そちらもお取り寄せになります」
「な、なるほど。こいつは手ごわいな」
「へ?」
「いや。?それじゃあ、いま在庫があるのはどれですか?」
「在庫を置いてございますのは、こちらとこちら。それとこちらになります」
えー。そんなの聞いてないよー。
うーん。まぁ、どれでも別におかしくないんだけど。
あ、待てよ、確かあれはナビウォークが使えないんじゃ?
いや、でも着うたあればとりあえずはいいか。
いやいや、妥協しちゃいかん。やっぱり最初のにしよう。
「…」
(だめだ!思い出すんだオレ!)
思い出すって、なにを…
(ここに来る前にどこに寄ってきた?)
…あ、ドコモショップ寄って来た
(ドコモショップでなにしてきた?)
…
…!
解約してきた!!
そう。男には、おっとり与平を待つ余裕なんてないのだ。
「?これでいいです」
「えーと。すいませんこれはタイプ?なんですが、いまあるのはタイプ?ではないほうで、?のほうになりますとお取り…」
「じゃあ、こっちで」
「…こちらでよろしいんですか?」
「うん」
「では、色は何色がいいでしょう?」
「何色があるの?」
「水色とイエ…」
「水色」
「わ、わかりました。少々お待ち下さいませ」
勝った…。
そう、男は闘いに勝った。そして携帯を買ったのだ。
30分後。新しい携帯を手に、颯爽と店をあとにする男。
少し顔がにやけているようだ。
だが、このあと、250件以上あるアドレスを1件ずつ登録しなくてはいけないことなど、男はまだ知るよしもなかった。。。
完
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