2011年3月アーカイブ

冷たい空が悲しみの手をひいて
ぼろぼろになった心へ身を投げる
何も感じなくなることが怖いから
それすら受け止めて、抱きしめた

大切なものは何でしょう
見失うのはなぜでしょう
消え行く先はどこでしょう
強がる笑顔は嘘でしょう
わかっているから泣くのでしょう

近所のコンビニから、弁当やパンが軒並み消えていた。
多少の焦りを感じながら、スーパーへ向かう。1軒目、2軒目、3軒目。。空っぽになった陳列棚に、値札だけが行儀よく並んでいる。食材の姿は綺麗に消えていた。
肩を落としながらも、店内をぐるりと回り、パスタとうどんとラーメンをカゴに入れた。
レジに並んでいると、目の前で会計をしていた主婦が「明日来たら食材あるのかしら?」と店員に訊ねている。主婦と同じぐらいの歳の店員は「それがちょっとわからないんですよ、すいません」と、早口で答えると、また下を向いてレジ作業を再開した。
混乱は人を苛立たせる。わかっていても、だ。

ガスも電気も止まったときのことを考え、 ガスコンロを買っておこうと池袋へ出向く。ダイヤは不規則だが、電車が運行していてほっとする。
駅を出ると、普段と変わらないぐらいの数の人が歩いていて、なんだか不安になった。
けれどその不安が、どこからくるのかわからない。
喫煙エリアで、タバコをふかしながら楽しそうに携帯で話す営業マン。ブランドショップの買い物袋をぶらぶらさせて歩く女性と、嬉しそうにその手をひく男性。威勢よく呼び込みをする居酒屋の店員。器用に人ごみの中を走る自転車。笑顔で窓口に立つ、宝くじ売り場のお姉さん。
当たり前の光景。変わりばえのしない日常。

数分歩いてハンズに着く。店内に入ろうとして、ガラス戸に貼られた注意書きに気づく。
『 懐中電灯、乾電池類等は完売いたしました 』 
ああ、こりゃあ無いな。そう思いながらも一応売り場に行ってみるが、やはりガスコンロも売り切れだ。何もかも後手後手過ぎる。
それでもせっかく来たのだからと、テレビが倒れないように結束バンドを買って店を出る。これが役立つときがこなければいいのだけれど。
駅へ戻る途中に、ブックオフの看板が目に入る。外に出られなくなったときのために、本でも買って帰ることにした。
エスカレーターに乗って、3階の小説・コミックコーナーに着く。
すると、あまりにもたくさんのひとたちが、漫画を立ち読みしている姿が視界に飛び込んできて、思わず「えっ」と声がでた。
...いや、別に驚くことではない。けれどまた、よくわからない不安に襲われる。
なんとなく急いで本を一冊買うと、すぐ出口に向かった。
下りのエスカレーターで1階へ。すれ違うカップルの声が耳をかすめる。
「地震きたらどーする?本とかダーッて落ちてきたりして。ウケるんだけどマジで」

部屋に戻る。エアコンのリモコンを手に取る。少し考えた末、電源をつけずにそのまま置いた。上着を脱がずにソファに座って、ひと息つく。これで何が変わるわけでもないが。
ベランダに面した窓の下のほうに、ジジのシルエットがぼんやりと見える。立ち上がって近づくと、小さな鳴き声が一度、二度。
ゆっくりと窓を開けると、待ってましたとばかりにジジが飛び込んでくる。専用の雑巾で体を拭き、ウェットティッシュで足の裏とお尻を拭く。ごはんの前なら抵抗はしない。
キャットフードを勢いよく掻き込む姿を見ていると、なんだかほっとする。
いまの自分にできる、自分以外の命に対してできること。猫にごはんをあげること。生きること。生きていることを受け止めること。

 

すべての被災者に希望を。命を無くした方々にご冥福を。